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和歌山地方裁判所 昭和61年(ワ)673号 判決

原告

江川豊

被告

松本太郎吉

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告に対し金二一一四万六一〇〇円およびこれに対する昭和五八年一月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金二五〇〇万円およびこれに対する昭和五八年一月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告(大正一二年三月二六日生の女性)は左記の交通事故(以下「本件交通事故」という。)により、傷害を受けた。

(一) 発生時 昭和五八年一月二一日午後四時三五分ころ。

(二) 発生場所 和歌山県御坊市岩内八七番地先路上(県道姉子御坊線・アスフアルト舗装)交通整理が行なわれていない三叉路

(三) 加害車 被告松本新八(以下「被告新八」という。)運転の小型特殊自動車(フオークリフト・登録番号 御坊市特六三三号。以下「加害車」という。)

(四) 被害車 原告運転の軽四輪貨物自動車(登録番号和歌山四〇け八八三一。以下「被害車」という。)

(五) 事故の態様 原告運転の被害車が西方向から東方向に進行し、道路南側に運転席を東にして停車中の訴外白水某(以下「訴外白水」という。)運転の大型貨物自動車(以下「大型貨物自動車」という。)の北側側方を通過しようとした際、折から被告新八運転の加害車が北方向から西方向へ左折して大型貨物自動車の後方(東側)を通過しようとしたため、加害車の爪(フオーク部分)の左先端付近が被害車の右前輪付近に衝突し、そのはずみで被害車が暴走・横転し、前後が反転した状態で道路北側の側溝および側溝を隔てた田に突つ込んだ。

2  原告は本件交通事故によつて左記の傷害を受けた。

(一) 症病名 前額鼻背頬部裂創、前頭部尾骨開放性骨折、頭蓋底骨骨折、脳挫傷、胸部大腿打撲、顔面外傷向後瘢痕、右開眼困難、右外傷性眼瞼下垂、右鼻涙管閉塞、右下瞼外反症、右外転神経麻痺、右外傷性白内症

(二) 症状の経過 別表治療状況一覧表のとおり

なお、原告は本件交通事故直後から約一週間は、全く意識不明で生命が危険な状態であつた。また、治療期間中合計九回の手術を余儀なくされた。

(三) 後遺症 原告は、別紙治療状況一覧表記載の最後の治療日である昭和六一年一二月六日のころである昭和六一年一二月末日症状固定したが、現在もなお左記のとおり後遺障害が残存していて、その程度は自賠法施行令二条別表併合五級に該当する。

(1) 右開瞼不能、右上瞼完全下垂(同表八級一号)

(2) 鼻呼吸困難、鞍鼻(同表九級五号あるいは一〇級二号)

(3) 女子の外貌の著しい醜状(同表七級一二号)

(4) 右瞼運動制限著明(同表一二級一号)

(5) 右眼水晶体に混濁(同表一三級二号)

3  被告新八は本件交通事故の際加害車を運転していて、その際後記の過失により本件交通事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により不法行為責任を負い、被告太郎吉は、加害車の運行供用者であるから自賠法三条により、あるいは被告新八は被告太郎吉の営む木工業の業務に従事中本件交通事故を起こしたから民法七一五条により(後記の被害車の全損による損害については民法七一五条のみによる。)、本件交通事故によつて原告が受けた損害について連帯して賠償する責任を負つている。

すなわち、被告新八は、前記三叉路南西側に大型貨物自動車が停止しており、左方向(西側)の見通し極めて困難であつたが、このような場合自動車運転手としては、一時停止する等して左方向の安全を確認すべき注意義務があるのに、漫然加害車を左折させようとして被害車に接触した過失がある。

4  原告は本件交通事故により左記の損害を受けた。

(一) 治療費 五一〇万七八六〇円

原告は別表治療状況一覧表記載のとおり、治療費・入院費等として各医療機関に合計金五一〇万七八六〇円を支払い、同額の損害を受けた。

(二) 入院雑費 三二万三〇〇〇円

原告は別表治療状況一覧表記載のとおり、各医療機関に合計三二三日間の入院し、その間の入院雑費として少なくとも一日あたり金一〇〇〇円合計金三二万三〇〇〇円の出費を余儀なくされた。

(三) 看護費用 四九万三二〇〇円

原告は別表治療状況一覧表記載のとおり、入院期間中職業付添人の看護を七日受け、金六万九七〇〇円を支出して同額の損害を受け、また同表記載のとおり近親者の付添看護を一二一日間受け、一日あたり金三五〇〇円、以上合計四九万三二〇〇円の損害を受けた。

(四) 入通院交通費 七二万円

原告は別表治療状況一覧表記載の原告の入院期間のうち昭和五八年一月二一日から昭和六〇年四月二六日までの原告本人の通院交通費および親近者の交通費合計金八〇万五八六〇円の支出を余儀なくされたが、このうち金七二万円を被告らに請求する。

(五) 保護メガネ代金 四万七八〇〇円

原告は本件交通事故による傷害のため、保護メガネの購入を余儀なくされ、代金四万七八〇〇円を支出した。

(六) 休業損害 八四五万五三〇〇円

(1) 原告は、本件交通事故以前、農業(水田六畝、畑三反四畝)に従事するかたわら、訴外関西電力株式会社の送電塔工事等の日雇労働に従事していた。原告の休業損害を算出するにあたつては、労働省製作調査部編賃金センサス昭和五六年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の年齢階級別平均給与額(臨時給与を含む。)満六〇歳の数字より算出(これに一・〇七〇一を乗じて調整後の数字。)した月額一七万九九〇〇円(年額二一五万八八〇〇円。財団法人日本弁護士連合会交通事故損害算定基準昭和六〇年版九四頁参照。)を収入として算定するのが合理的である。

(2) 休業期間の終期については、別表治療状況一覧表記載のとおり、原告が最終的に治療を受けた昭和六一年一二月末日であるとするのが相当である。

なお、倉敷中央病院整形外科医師作成の後遺障害の診断書(甲第五号証の三)には、症状固定の日が昭和五九年一〇月三日と記載されているが、これは原告が被害車の塔乗者保険に保険金を請求するために、その目的についてのみ同医師に依頼して作成してもらつたものであり、その後も別表治療状況一覧表記載のとおり手術等加療を受けているのであるから、右時期に症状が固定したと考えるのは相当ではない。

従つて、原告の休業期間は本件交通事故の発生した右記昭和五八年一月から昭和六一年一二月までの四七か月間は就労不能期間と算定されるべきである。

(七) 後遺症による逸失利益 一〇〇一万七八二五円

(1) 原告の後遺障害による逸失利益算出の基礎となる収入は前記(六)記載の月額一七万九九〇〇円、年額二一五万八八〇〇円を基礎として算出されるべきものである。

(2) 原告の後遺障害は前記のとおり自賠法施行令二条別表併合五級に該当し、その労働能力喪失割合は、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号による七九パーセントであるとするのが相当である。

(3) 原告の就労可能期間は、前記後遺障害症状固定時である昭和六一年一二月当時の満年齢六三歳から満六九歳まで、年数は少なくとも七年間はあり、その新ホフマン係数は五・八七四である。

(八) 物損 四〇万円

原告は、本件交通事故によりその所有の被害車(軽四輪貨物自動車)が大破し、使用不能になつたため、その本件交通事故当時の価額である金四〇万円(昭和五五年一二月新車登録。事故時まで約二年間使用。)の損害を受けた。

(九) 慰藉料 一二〇〇万円

(1) 原告の本件交通事故による傷害の程度、治療内容・期間・方法は別表治療状況一覧表の記載のとおりであり、その後遺障害は前記のとおりである。

(2) 原告は本件交通事故により、瀕死の重症を受け、事故直後から北浦病院において入院治療を受けたが、その傷害のため死線をさまよい、意識が回復したのは本件交通事故ののち約一週間後であり、その後も生命が危ぶまれる重篤な容態が続いた。そして生命の危険状態を脱し、日高総合病院に転院してから後も、顔面の著しい醜状を残し、前記のとおり倉敷中央病院に三回にわたり入院し、形成手術を七回も受け、これらの手術はいずれも肉体的・精神的に極めて苦痛が大きく、とりわけ二回の鼻の形成手術後は、ゴム管を呼吸のため鼻から喉に通し、長期間その状態で加療を受けた原告の苦しさは、原告をして「死んだ方がましか。」と思わしめた程のものであつた。

(3) 倉敷中央病院で一応の形成手術を受けた後も、右顔面がしびれ、右眼の瞼は完全に閉じてしまい、眼ヤニが続き、また鼻呼吸が大変苦しい状態が続き、その後二回にわたり訴外角谷整形外科病院で鼻呼吸を楽にするとの手術を受けざるを得なかつた。

(4) また、それらの手術の後現在に至るまで前記の後遺障害が残り、顔面は以前と似ても似つかない様相を呈し、日常生活さえもままならず、息さえ楽にできたらというのが原告の最大の望みであるというほどである。

(5) 前記事情に照らせば、原告の右肉体的・精神的苦痛の慰藉料としては右金額を下回ることがない。

入通院慰藉料として 金五〇〇万円

後遺症慰藉料として 金七〇〇万円

5(一)  右損害のうち原告の治療費は別紙治療状況一覧表記載の金五一〇万七八六〇円を要したが、その七〇パーセントにあたる金三五七万五五〇二円が国民健康保険から支払われた。

(二)  さらに原告は被告新八より治療費の一部として金一四六万一三六九円を、さらに事故ののち三年間にわたり損害賠償内金として毎月金一〇万円ずつ合計金三六〇万円の支払いを受けた。

6  しかし、被告らは原告に対し、被告新八が本件交通事故による損害賠償の内金として前記のとおり金五〇六万一三六九円の支払いをしたのみで任意にその余の支払いをなさなかつたため、原告は本件原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・遂行を委任せざるを得ず、本件交通事故と相当因果関係にある弁護士報酬としては少なくとも金二〇〇万円を被告らの負担とすべきである。

7  以上の次第で、被告らは原告に対し各自金三〇九二万八一一四円およびこれに対する本件交通事故の日である昭和五八年一月一二日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある(計算関係については別紙計算式1参照。)。

8  よつて原告は被告らに対し、本件交通事故による損害賠償金の内金二五〇〇万円および本件交通事故の日である昭和五八年一月一二日から支払いずみまで年五パーセントの割合による金員の各自の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項はすべて認める。

2  請求原因2項(一)、(二)はいずれも不知。同項(三)は後記のとおり争う。

3  請求原因3項の責任原因は認めるが、被告新八の本件交通事故についての過失の内容は争い、後記のとおり原告にも本件交通事故について過失があつたから過失相殺を主張する。

4  請求原因4項(一)ないし(五)の損害を原告が受けたことは認める。同項(六)(1)、(2)はいずれも争う。同項(七)(1)、(2)は争う。同項(八)は争う。同項(九)(1)ないし(4)はいずれも不知、同(5)は争う。

5  請求原因5項は認める。

6  請求原因6ないし8項はいずれも争う。

三  被告の主張

1  後遺障害の症状固定日について

被告の後遺障害の症状固定日は、後記の理由で、昭和五九年六月五日ころあるいは遅くとも昭和五九年一〇月三日であつて、原告の休業損害が認められる期間は本件交通事故の日である昭和五八年一月二一日から前記期間までの間に限られる。

すなわち原告の治療経過については、別紙治療経過一覧表記載のとおりであつて、原告が昭和五八年九月一二日、倉敷中央病院に転医してからは、主として同病院の形成・整形外科と眼科において三回にわたり入院のうえ治療を受け、原告が同病院の二回目の入院を終えた昭和五九年六月五日ののち、原告は同病院において三回目の入院をしたうえ手術を受けているが、右三回目の入院の際に受けた手術は右瞼の開きをよくするための手術であつたが、これによつて原告の症状は好転しておらず、その後も原告の症状は変わつていないから、原告の後遺障害固定日は原告の二回目の入院が終わつた昭和五九年六月五日ころと考えるべきである。また、仮にそれが認められないとしても原告の後遺障害症状固定日は、遅くとも原告が同病院において三回目の入院・手術を終え、同病院整形外科医師作成の後遺障害診断書(前記甲第五号証の三)に症状固定日として記載されているとおり昭和五九年一〇月三日であると解すべきである。

原告は、同病院において昭和六〇年九月九日受診しているが、これは手術後の経過をみるための受診であつて、このことは原告の三回目の退院後約一年経過していること、同日診断書(甲第五号証の六)を作成してもらつていること、また同日一日のみの診察であることから明らかである。また、それ以降も和歌山労災病院あるいは角谷整形外科病院で散発的な治療(二年あまりの間に九回にすぎない。)を受けてはいるが、いずれも後遺障害固定後の症状への対症的治療に過ぎないと考えるのが合理的である。

2  後遺障害の程度について

(一) 原告主張の右開瞼不能・右上瞼完全不垂は、原告主張の自賠法施行令二条別表八級一号に該当しないことは同表から明らかであり、同表一二級二号あるいは一四級一号に該当すると考えられるが、前記倉敷中央病院整形外科医師作成の後遺障害診断書(前記甲第五号証の六)からして、軽快の可能性もないではないし、また同表一二級二号に該当するとの的確な証拠もないので、同表一四級一号に該当するにすぎないと考えるべきであり、同鼻呼吸困難・鞍鼻は、その症状はあるものの原告主張の同表九級五号に定められる鼻の機能に著しい障害を残すものに該当するとは考えられず、同右瞼運動制限の症状は復視にならない程度の視力傷害がある程度にすぎないから、原告主張の同表一二級一号に該当するとまではいえない。

また、女子である原告の外貌の著しい醜状が残存しているとの主張についは本件においてはその醜状が「著しい」とまではいえないから、同表一二級一四号に該当するにすぎないと解すべきである。なお、保険会社の行なう自賠責の等級認定手続きにおいては、仮に女子が鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残す場合でも単に同表七級一二号に該当するにすぎないと認定される扱いである。

以上、原告の後遺障害の程度が自賠法施行令二条別表併合五級に該当するとの主張は、過大にすぎる。

(二) また、原告の後遺障害のうち、外貌醜状については、原告の年齢、その従事する労働の性質(家事労働および農業)によれば、移藉料について考慮されることは格別、逸失利益に影響を与えるものではない。

3  過失相殺について

(一) 本件交通事故の発生した一月二一日午後四時三五分ころといえば十分明るく、視認性がわるくないと考えられるにもかかわらず、また本件交通事故が発生した道路は直線であり、加害車は時速約一五キロメートルから人が歩く程度の時速約五キロメートルに減速したうえ、かなり大きく大型貨物自動車の東側を左カーブしていたのであり、また加害車(フオークリフト)の爪は地上約二〇センチメートル位の高さに向かつて動いていたのであるから、加害車が大型貨物自動車に隠れていたとはいえ、原告が前方さえ注視していれば、原告は加害車が本件交通事故の発生した交差点に侵入してきたことが容易に発見することが可能であつたにもかかわらず、原告自身がなぜ加害車が発見できなかつたか不思議に思うと供述するぐらい原告は前方を注視せず、時速約四〇キロメートルの速度で走行していたのであるから、原告自身重大な前方注視義務違反があり、その過失割合は少なくとも三〇パーセントを下回らない。

(二) 従つて原告の損害総額を三〇パーセント減額したうえで、そのうちから原告が自認する既払額を控除して損害額を算出すべきである。

四  被告の主張に対する原告の主張および反論

1  被告の主張1、2項については請求原因記載のとおりであり争う。

2  被告の主張3項の過失相殺の主張は争う。本件交通事故は、被告新八運転の加害車からの左方の見通しが極めて困難か状況下にあつたのであり、また加害車(フオークリフト)の爪は一番下の位置にして走行すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠つたという重大な過失により生じた事故であり、一方原告の立場から見れば、大型貨物車のかげからフオークリフトの爪が出てくるといつた事態は、通常の予想を越えているものであり、原告が普通の前方注視をしても発見できなかつたものであつて、これを見落としたという意味では原告に過失はない。したがつて、本件は過失相殺がされるべき事案ではない。

第三証拠

証拠関係は記録中の書証目録および証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  いずれも証人江川久美の証言により成立が認められる甲第一号証の一ないし二五、いずれも原本の存在および成立について当事者間に争いがない甲第二号証の一、第五号証の二ないし六、第一四号証の一ないし一五、いずれも当事者間に成立に争いがない甲第二号証の二、第三、第四号証、第五号証の一、七ないし一七、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一ないし一三、第一二号証の一ないし三、第一五号証、第一九号証、原告本人尋問の結果により成立が認められる甲第九号証の一、いずれも弁論の全趣旨により成立が認められる甲第九号証の二、第一〇号証、第一一号証の一ないし九、弁論の全趣旨により昭和六二年九月三〇日に撮影された鼻管の写真であることが認められる検甲第一号証、第二号証の一、二、いずれも和歌山地方検察庁御坊支部の被告人松本新八に対する業務上過失傷害被告事件記録中の本件交通事故当時の本件交通事故現場および加害車および被害車の写真を撮影した写真であることが記録上明らかな検甲第三ないし第一〇号証、弁論の全趣旨により本件交通事故現場付近を昭和六二年一〇月四日撮影した写真であることが認められる検甲第一一ないし第一五号証、証人江川久美の証言、原告本人および被告松本新八本人尋問の各結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  原告(大正一二年三月二六日生の女性)が、昭和五八年一月二一日午後四事三五分ころ、交通整理が行なわれていない三叉路である和歌山県御坊市岩内八七番地先路上(県道姉子御坊線・アスフアルト舗装)軽四輪貨物自動車である被害車を運転し被害車が西方向から東方向に進行し、同道路南側に運転席を東にして停車中の訴外白水運転の大型貨物自動車の北側側方を通過しようとした際、折から被告新八運転の加害車が北方向から西方向へ左折して大型貨物自動車の後方(東側)を通過しようとしたため、加害車の爪(フオーク部分)の左先端付近が被害車の右前輪付近に衝突し、そのはずみで被害車が暴走・横転し、前後が反転した状態で道路北側の側溝および側溝を隔てた田に突つ込んだ。

本件交通事故は、被告新八が、前記三叉路南西側に大型貨物自動車が停止しており、左方向(西側)の見通し極めて困難であつたが、このような場合自動車運転手としては、一時停止する等して左方向の安全を確認すべき注意義務があるのに、漫然加害車を左折させようとして被害車に接触した過失によつて生じたものであり、原告にも後記のとおり、十分前方を注視せず、被害車を運転・走行していた過失がある。

2  原告は前項記載の本件交通事故によつて、前額鼻背頬部裂創、前頭部尾骨開放性骨折、頭蓋底骨骨折、脳挫傷、胸部大腿打撲、顔面外傷後瘢痕、右開眼困難、右外傷性眼瞼下垂、右鼻涙管閉塞、右下瞼外反症、右外転神経麻痺、右外傷性白内症の各傷害を負つた。

3  原告は、本件交通事故当日である昭和五八年一月二一日から昭和六一年一二月六日に至るまで、別紙治療状況一覧表記載の医療機関名・治療期間・入院日数・通院日数各欄記載のとおり北浦病院、和歌山県立医科大学附属病院等医療機関の内科・形成科、眼科等に通院あるいは入院し治療を受けた。なお原告は本件交通事故直後から約一週間は、全く意識不明で生命が危険な状態であつたほか、治療期間中合計九回の手術を受けることを余儀なくされた。

4  原告は、別紙治療一覧表記載の各治療を受けたものの、現在もなお、左記記載の後遺傷害が残存している。

(一)  右開瞼不能、右上瞼完全下垂

(二)  鼻呼吸困難、鞍鼻

(三)  外貌の著しい醜状

(四)  右瞼運動制限著明

(五)  右眼水晶体に混濁

5  被告新八は本件交通事故の際加害車を運転していて、その際前記の過失により本件交通事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により不法行為責任を負い、被告太郎吉は、加害車の運行供用者であるから自賠法三条により、あるいは被告新八は被告太郎吉の営む木工業の業務に従事中本件交通事故を起こしたから民法七一五条により(後記の被害車の全損による損害については民法七一五条のみによる。)、本件交通事故によつて原告が受けた損害について連帯して賠償する責任を負つている。

6  原告は本件交通事故のため、以下の支出あるいは債務負担をした。

(一)  治療費

原告は別表治療状況一覧表記載のとおり、治療費・入院費等として各医療機関に合計金五一〇万七八六〇円を支払つた。

(二)  入院雑費

原告は別表治療状況一覧表記載のとおり、各医療機関に合計三二三日間の入院し、その間の入院雑費として一日当たり金一〇〇〇円宛合計金三二万三〇〇〇円を下回らない出費をした。

(三)  看護費用

原告は別表治療状況一覧表記載のとおり、入院期間中職業付添人の看護を七日受け金六万九七〇〇円を支出した。また、同表記載のとおり近親者の付添看護を合計一二一日間受けた。

(四)  入通院交通費

原告は別表治療状況一覧表記載の原告の入院期間のうち昭和五八年一月二一日から昭和六〇年四月二六日までの間の原告本人の通院交通費および近親者の交通費として合計金八〇万五八六〇円の支出をした。

(五)  保護メガネ代金

原告は本件交通事故による傷害のため、保護メガネの購入を余儀なくされ、代金四万七八〇〇円を支出した。

(六)  物損

原告は、本件交通事故によりその所有の被害車(軽四輪貨物自動車)が大破し、使用不能になつた。同車の本件交通事故当時の価額は金四〇万円(昭和五五年一二月新車登録。事故時まで約二年間使用。)であつた。

7  原告は、治療費として国民健康保険から、金三五七万五五〇二円の給付を受け、さらに原告は、被告新八より治療費の一部として金一四六万一三六九円を、さらに本件交通事故ののち三年間にわたり損害賠償内金として毎月金一〇万円ずつ合計金三六〇万円の支払いを受けた。

二  そこで、前掲各証拠並びに弁論の全趣旨に基づき、原告が本件交通事故によつて受けた、本件交通事故と相当因果関係のあると解される損害およびその金額について判断する。

1  原告は、別紙治療状況一覧表記載のとおり、治療費・入院費等として各医療機関に合計金五一〇万七八六〇円を支払い、同表記載の原告の入院期間のうち昭和五八年一月二一日から昭和六〇年四月二六日までの間に原告本人の通院交通費および近親者の交通費として合計金八〇万五八六〇円支出し金七二万円を下回わらない損害を受け、別表治療状況一覧表記載のとおり、入院期間中職業付添人の看護を七日受け金六万九七〇〇円を、また同表記載のとおり近親者の付添看護を一二一日間受け一日あたり三五〇〇円宛合計四二万三五〇〇円、以上合計四九万三二〇〇円の看護料についての損害を受け、また、前記各医療機関に合計三二三日間の入院し、その間の入院雑費として一日あたり金一〇〇〇円宛合計金三二万三〇〇〇円を支出し、本件交通事故による傷害のため、保護メガネの購入を余儀なくされた右代金四万七八〇〇円を支出し、本件交通事故によりその所有の被害車(軽四輪貨物自動車)が大破して使用不能になつたが同車の本件交通事故当時の価額は金四〇万円であり同額の損害を受け、これらはいずれも全額本件交通事故と相当因果関係にある傷害と認めることができる。

2  原告の本件交通事故による傷害の程度、治療内容・期間・方法等は前記のとおりであり、原告が本件交通事故により、瀕死の重症を受け死線をさまよい、本件交通事故直後から北浦病院に入院し、意識が回復したのは本件交通事故ののち約一週間後であり、その後も生命が危ぶまれる重篤な容態が続き、さらに生命の危険状態を脱し、日高総合病院に転院してから後も、顔面の著しい醜状を残していたため、前記のとおり倉敷中央病院に三回にわたり入院し、形成手術を七回受け、これらの手術はいずれも肉体的・精神的に極めて苦痛が大きく、とりわけ二回の鼻の形成手術後は、ゴム管を呼吸のため鼻から喉に通し、長期間その状態で加療を受けた原告の苦しさは著しいものがあつた。また倉敷中央病院で一応の形成手術を受けた後も、右顔面がしびれ、右眼の瞼は完全に閉じてしまい、眼ヤニが続き、また鼻呼吸が大変苦しい状態が続き、その後二回にわたり訴外角谷整形外科病院で鼻呼吸を楽にするとの手術を受けざるを得なかつた。以上の事情に照らすと原告の入通院にともなう右肉体的・精神的苦痛の慰藉料としては、金三五〇万円をもつて相当と認める。

3  前掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、現在もなお左記のとおり後遺障害が残存していて、その程度は自賠法施行令二条別表の同記載の等級にそれぞれ該当するものと認められ、同表一三級以上に該当する身体障害が二以上あるから、後遺障害慰藉料算出にあたつては、少なくとも重い女子の外貌の著しい醜状(同表七級)を一級繰り上げた同表六級の後遺障害が残置しているものと解すべきものであり、後遺障害による慰藉料は原告が後遺障害慰藉料として請求している金七〇〇万円を下回らないと解されるから、後遺障害慰藉料としては原告請求の金七〇〇万円をもつて相当と認める。

(一)  右開瞼不能、右上瞼完全下垂、右瞼運動制限著明(同表一二級二号)

(二)  鼻呼吸困難、鞍鼻(同表一〇級相当)

(三)  女子の外貌の著しい醜状(同表七級一二号)

(四)  右眼水晶体に混濁(同表一三級二号)

なお、(一)記載の右開瞼不能、右上瞼完全下垂は、前記の右瞼運動制限著明も含めても、原告主張の自賠法施行令二条別表八級一号に該当するものとは解されず、同表一二級二号に該当するにすぎないと認められ、同(二)記載の鼻呼吸困難、鞍鼻は、同表九級五号あるいは同表九級相当には該当するとは解されないが、原告本人尋問の結果等前掲各証拠並びに当裁判所に顕著な原告本人尋問の際における原告の様子から、同表一〇級二号の後遺障害に相当するものとして、同表一〇級に該当すると認める。また、同(三)記載の原告の醜状は、当裁判所に顕著な原告本人尋問の際における原告の顔面から著しい醜状と解するに十分であり、女子の外貌の醜状(同表一二級一四号)に該当するにすぎないとの被告らの主張には理由がなく、同(四)記載の右眼水晶体の混濁は同表一三級二号に該当するものと解され、これが同表に該当するまでの後遺障害に至らないとの被告の主張には理由がない。

4  前掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件交通事故以前、農業(水田六畝・畑三反四畝)に従事するかたわら、訴外関西電力株式会社の送電塔工事等の日雇労働に従事していたことが認められる。原告の休業損害を算出するにあたつては、最新の労働省政策調査部編賃金センサス昭和六一年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の年齢階級別平均給与額(臨時給与を含む。)満六〇歳から六四歳の数字より算出した年間金二四一万〇八〇〇円を基礎にして算出するものとし、休業期間は本件交通事故の日である昭和五八年一月二一日から、後述の理由による休業期間の終期である昭和五九年一〇月三日まで、合計六二二日間として算出した金四一〇万七六八八円をもつて相当と解する。

この点について、原告は、休業期間の終期については、別表治療状況一覧表記載のとおり、原告が最終的に治療を受けた昭和六一年一二月末日であるとするのが相当であり、倉敷中央病院整形外科医師作成の後遺障害診断書(前記甲第五号証の三)には、症状固定の日が昭和五九年一〇月三日と記載されているが、これは原告が被害車の塔乗者保険に保険金を請求するために、その目的についてのみ同医師に依頼して作成してもらつたものであり、その後も別表治療状況一覧表記載のとおり手術等加療を受けているのであるから、右時期に症状が固定したと考えるのは相当ではない旨主張するが、前掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告の治療経過については、別紙治療経過一覧表記載のとおりであつて、原告が昭和五八年九月一二日、倉敷中央病院に転医してからは、主として同病院の形成・整形外科と眼科において三回にわたり入院のうえ治療を受け、原告は同病院において三回目の入院・手術を終えたのは、右後遺障害診断書に症状固定日として記載されている昭和五九年一〇月三日であり、その後原告は、同病院において昭和六〇年九月九日受診しているが、これは原告の三回目の退院後約一年経過していること、また同日一日のみの診察であることから手術後の経過をみるための受診であるものと認められること、それ以降も原告は和歌山労災病院あるいは角谷整形外科病院で散発的な治療(二年あまりの間に九日にすぎない。)を受けてはいるが、本件全証拠によつても、それらの入通院および手術によつても原告の症状は改善されてはいないものと認められ(原告本人尋問の結果および原告の陳述書である甲第一九号証によりこれを認める。)、これらは被告ら主張のとおり、いずれも後遺障害固定後の症状への対症的治療に過ぎないと考えるのが合理的であり、これらの入院をもつては、前記後遺障害診断書(前記甲第五号証の三)に症状固定日と明記されている昭和五九年一〇月三日とあえて別異に解することとなる昭和六二年一二月末日を症状固定日とする根拠とするには不十分と解するほかなく、また、実質的に考えても、本件における症状固定の日は、本件交通事故後遺症状固定の日以前はその期間の得べかりし所得の全額が本件交通事故と相当因果関係にある損害であると解され、症状固定の日以後はその期間の得べかりし所得に労働能力喪失割合を乗じた金額が本件交通事故と相当因果関係損害であると解されるという意味をもつべきところ、原告本人尋問の結果および甲第一九号証(原告の陳述書)によれば、原告は倉敷中央病院の主として形成・整形外科と眼科において三回にわたり入院のうえ治療を受けるまでは、農作業あるいは関西電力の臨時工としての就労はもちろんのこと、全く家事等の仕事ができなかつたものと認められ(なお、右甲第一九号証には、原告は昭和五九年いつぱいは家事等が全くできなかつた旨記載されているが、右治療終了から同年末までの経緯・様子については具体的に記述されておらず、その部分は必ずしも証明されるに至つているとまでは解せない。)、それ以降は後記のとおり、前記の治療等によつて、自己の身のまわりのこと、および家事等も若干できるようになつたものと認められることから、それらの分岐点たる症状固定日は、前記治療が終了したことが証拠上明確で、なおかつ前記後遺障害診断書に明記されている昭和五九年一〇月三日と解するのが相当である。

5  原告の後遺傷害による逸失利益算出の基礎となる収入は前記4項記載の年額金二四一万〇八〇〇円を基礎として算出することとし、その就労可能期間は、その前記症状固定時である昭和五九年一〇月(原告の当時の満年齢六一歳)から、原告主張の七年間に、前項記載の後遺障害の症状固定後として休業損害として認めることのできない期間二年間余を加えた合計九年間は少なくとも就労可能であると認められるから(昭和五九年簡易生命表の満六一歳の女子の平均余命二二・一三年の二分の一である一一年間を下まわつている。)その新ホフマン係数は七・二七八二であり、その労働能力喪失割合は後記のとおり五〇パーセントをもつて相当と解されるから、後遺障害による逸失利益は、以上により算出された金八七七万三一四二円をもつて相当と解する。

なお、原告は、原告の後遺障害は前記のとおり自賠法施行令二条特別表併合五級に該当し、その労働能力喪失割合は労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号による七九パーセントであるとするのが相当である旨主張するが、前記認定のとおり、原告の後遺障害の等級は同表六級に該当するものとみられるほか、後遺障害のうち最も重い女子の著しい外貌醜状については、原告の年齢、その従事する労働の性質(家事労働および農業等)からすれば、外貌の醜状は買い物、近隣の人とのつきあい等円滑な家事の遂行に事実上大きな影響を与えないものであるとは解されないから、被告らの右後遺障害はその労働の性質上全く逸失利益に影響を及ぼさないとの主張までは採りえないが、その逸失利益の算出をするにあたつての労働能力喪失割合について抽象的に前記自賠法施行令二条別表併合六級に定められている六七パーセントとすることは相当であるものとは解されず、本件関係各証拠から具体的にその逸失利益を算出するのが相当である。

そして、前掲各証拠、とりわけ原告本人尋問の結果、証人江川久美の証言および前記甲第一九号証(陳述書)、並びに弁論の全趣旨によれば、原告は前記後遺障害の症状固定の日である昭和五九年一〇月三日以降も、本件交通事故による後遺傷害のうち、とりわけ呼吸が苦しいこと、目が自由に開けられないこと等のため、それまで行なつていた農業および関西電力の臨時工としての就労は全く行なうことができず、その田畑はいずれも荒れたままになつていること、原告は、自己の身のまわりのこと、および家事等も若干はできるようになり、現実に高齢の夫と二人の生活のために家事を行なつているが、その家事にすらかなり困難をきたしていることが認められ、その労働能力喪失割合としては、五〇パーセントを下まわることはないものと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないので、右五〇パーセントをもつて算出すべきものと解する。

三  次に被告らの過失相殺の主張について判断する。

本件事故は、前記のとおり被告新八が、前記三叉路南西側に大型貨物自動車が停止しており、左方向(西側)の見通し極めて困難であつたが、このような場合自動車運転手としては、一時停止する等して左方向の安全を確認すべき注意義務があるのに、漫然加害車を左折させようとして被害車に接触した過失、および分離前相被告有限会社三和貨物が自認しているとおり大型貨物自動車の運転手であり、同車の運転手である訴外白水が加害車を適切に誘導する義務を怠つたとの過失の競合により生じたものであるが、前掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、本件交通事故の発生した一月二一日午後四時三五分ころといえば明るく、視認性がわるくないと考えられ、また、本件交通事故が発生した道路は直線であり、加害車は大型貨物自動車の東側をさして速くもない速度で左カーブしていたのであり、その爪は地上二〇センチメートル位の高さに向かつて動きつつあつたのであるから、フオークリフトの爪が停車中の大型貨物自動車の陰から突然現れるということは、通常考えにくいこととはいえ、原告が前方さえ注視していれば、原告は加害車が本件交通事故の発生した交差点に侵入してきたことを発見してこれを回避しえ、あるいは回避しえずに被害車と加害車が接触したとしても、原告自身これらが衝突することに事前に気付いていたら、あるいは本件交通事故ほど重大な事態にならなかつた可能性もあり、原告自身がなぜ加害車が発見できなかつたか不思議に思う旨その本人尋問において供述するほど原告は前方を注視しておらず、従つて原告にも前方注視義務違反という過失があると評価されることは免れないが、原告主張のとおり、本件交通事故は、大型貨物自動車のため被告新八運転の加害車からの左方の見通しが極めて困難な状況下にあつたのであり、また加害車の爪は一番下の位置にしたうえ、一般道路である左方から自動車が走つてくることを十分考えたうえ走行すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠つたという重大な過失により生じた事故であることとの対比からすれば、本件交通事故における、過失相殺の際の原告の過失としては、一〇パーセントが相当であると解する。

四1  以上、原告が本件交通事故によつて受けた、本件交通事故と相当因果関係のある損害のうち、弁護士費用を除いた部分は合計金三〇四七万二六九〇円と認められる(以上についての計算関係については別紙計算式2参照。)。

2  本件交通事故については前記のとおり、原告にも一〇パーセントの過失があつたものと認められるから、右割合によつて過失相殺をすることになるが、国民健康保険から支払われた治療費は、実額損害から控除すべきであり、過失相殺後に定まる損害賠償額から控除すべきではないと解されるので(大阪地方裁判所昭和四六年一〇月二〇日判決。判例タイムズ二七二号三六一頁参照。)、国民健康保険からの給付額である三五七万五五〇二円を前記損害合計金三〇四七万二六九〇円からまず控除し、控除後の金二六八九万七一八八円から前記過失相殺の割合によつて算出された金額を減じ、これからさらに被告新八から原告に対し支払われた金五〇六万一三六九円を控除すると、原告が本件交通事故により被告に対して請求しうる弁護士費用を除く損害賠償金は金一九一四万六一〇〇円となり、また被告が本件交通事故による損害について一部のみを支払つたにすぎなかつたため、弁護士である原告訴訟代理人の本件の訴訟追行を委託せざるを得なかつたことは弁論の全趣旨から明らかであり、本件訴訟の難易、認容額等の事情によれば、原告が被告らに対する関係で請求しうる本件交通事故と相当因果関係がある費用としては金二〇〇万円が相当であると認められるから、これを加算し、結局原告が本件交通事故により受けた同事故と相当因果関係にある損害として被告らに対して損害賠償請求できるのは金二一一四万六一〇〇円(計算関係については別紙計算式2参照。)およびこれに対する本件交通事故の日である昭和五八年一月二一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各自支払いであるものと解される。

五  以上の次第で、原告の被告らに対する請求のうち金二一一四万六一〇〇円の支払いを求める部分およびこれに対する本件交通事故の日である昭和五八年一月二一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の各連帯支払いを求める部分には理由があるからこれを認容し、原告の被告らに対するその余の請求には理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西野佳樹)

計算式1

Ⅰ 損害

A 治療関係

〈1〉 診察料等 5,107,860

〈2〉 入院雑費 323,000

〈3〉 通院費 720,000

〈4〉 看護料 493,200

〈5〉 入院・通院慰藉料 5,000,000

〈6〉 保護メガネ代 47,800

以上小計σ1(〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉+〈6〉) 11,691,860

B 休業損害

〈1〉 期間(月) 47

〈2〉 一月あたりの得べかりし収入 179,900

以上小計σ2(〈1〉×〈2〉) 8,455,300

C 後遺症による損害

〈1〉 年収 2,158,800

〈2〉 期間(年) 7

〈3〉 新ホフマン係数 5.874

〈4〉 労働能力喪失割合[パーセント] 79

以上小計σ3(〈1〉×〈3〉×〈4〉÷100) 10,017,825

D 物損

自動車 400,000

E 慰藉料(後遺症) 7,000,000

以上損害額合計

(AないしEの総和) 37,564,985

F 国民健康保険から 3,575,502

G 過失相殺前の損害(E-F) 33,989,483

Ⅱ 過失相殺

〈1〉 過失相殺の割合[パーセント] 0

〈2〉 過失相殺後の金額

(G×(1-〈1〉÷100)) 33,989,483

Ⅲ 損益相殺

被告新八より 5,061,369

Ⅳ 弁護士費用 2,000,000

Ⅴ 総計(Ⅱ-Ⅲ+Ⅳ記載の各金額) 30,928,114

計算式2

Ⅰ 損害

A 治療関係

〈1〉 診察料等 5,107,860

〈2〉 入院雑費 323,000

〈3〉 通院費 720,000

〈4〉 看護料 493,200

〈5〉 入院・通院慰藉料 3,500,000

〈6〉 保護メガネ代 47,800

以上小計σ1(〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉+〈6〉) 10,191,860

B 休業損害

〈1〉 期間(日) 622

〈2〉 一日あたりの得べかりし収入 6,604

以上小計σ2(〈1〉×〈2〉) 4,107,688

C 後遺症による損害

〈1〉 年収 2,410,800

〈2〉 期間(年) 9

〈3〉 新ホフマン係数 7.2782

〈4〉 労働能力喪失割合[パーセント] 50

以上小計σ3(〈1〉×〈3〉×〈4〉÷100) 8,773,142

D 物損

自動車 400,000

E 慰藉料(後遺症) 7,000,000

以上損害額合計

(AないしEの総和) 30,472,690

F 国民健康保険から 3,575,502

G 過失相殺前の損害(E-F) 26,897,188

Ⅱ 過失相殺

〈1〉 過失相殺の割合[パーセント] 10

〈2〉 過失相殺後の金額

(G×(1-〈1〉÷100)) 24,207,469

Ⅲ 損益相殺

被告新八より 5,061,369

Ⅳ 弁護士費用 2,000,000

Ⅴ 総計(Ⅱ-Ⅲ+Ⅳ記載の各金額) 21,146,100

治療状況一覧表

〈省略〉

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